SIZESサイズ別
SERIESシリーズ別
WOLFGANG MAN & BEAST (ウルフギャング) > THE PACK > THE PACK(ページ下部) > TETSUYA OGAWA / BUBLES & MILK
小川 徹也 (プロロングボーダー)
千葉北、太東をホームとするプロロングボーダーの小川徹也さん。“テツさん”の愛称で親しまれ、サーファーたちにとってはアニキ的な存在だ。 20年以上前からクラシックなシングルフィンのログにこだわり、そのリラックスしたノーズライディングや、華麗なステップ、無駄のないターンで完璧なまでに波を遊びつくす。 今ではラミネーターとして、長年の相棒でもあるシェイパー、タッピーさんとタッグを組み、芸術的なロングボードを数多く世に送り出している。 あまり知らない人からすれば少々コワモテな印象もあるテツさんだが、実はとっても愛情深くて、優しい人。それが如実に伝わってくるのは、テツさんが2匹の愛犬といるときだ。
8歳になるボストン・テリアのバブルスと、推定6歳、ドゴ・アルヘンティーノのミルク。 太東ビーチにいると、時折2匹と散歩しているテツさんの姿を見かける。 サーフィンに行くときは犬たちも理解していて、夏場は開け放しにした車から出ないようにきちんとしつけられている。 「海からあがって砂浜の途中までくるとバブルスが真っ先に気付いて、こっちを見つめるんです」そう嬉しそうに語るテツさん。 テツさんは幼い頃から常に犬がいる環境の中で育った。実家には秋田犬、そのあと飼ったのはラブラドール2匹。ラブラドールが亡くなってしまったあとに出会ったのがボストンテリアのバブルスだった。 仔犬のバブルスはなぜかペットショップで安売りされていた。テツさんはそんなことよりも可愛い顔が気に入り店員に尋ねると「この子は “チェリーアイ”という結膜炎状態で、脱水症状も起こしているからおすすめできませんよ」そんな風に言い放たれた。 「その瞬間カチンときちゃって『 お前ちょっと来いよ 』って(笑)。『 俺はこの子のことが気に入ったんだよ。もっとほしいなら払おうか 』って言ってやったんです。そしたら一緒にいたプロロングボーダーの瀬筒雄太が『 テツさん、まあまあ 』って止めてくれました(笑)。犬への愛情がなく、筋の通ってない店員の態度がすごく嫌だったんですよ。結局その日、バブルスは雄太の膝の上で眠りながらうちに来ました」 テツさんと雄太くんが一緒にペットショップを訪れていること自体が可愛らしいエピソードではあるが。とにかくテツさんは昔から曲がったことが大嫌いな人だった。こうしてバブルスが家族の一員となったのだ。
一方、ドゴ・アルヘンティーノのミルクは、名古屋の動物愛護団体から引き取った保護犬だ。 テツさんのところに来たのは2017年4月5日だから、やっと1年経つというところ。 アルゼンチン原産で、狩猟犬や番犬として活躍するこの犬種は、少し前まで危険犬種に指定されていたこともあり、日本では希少。 テツさんはそんなドゴの勇ましさに憧れていたそう。そんな時、たまたま目にした里親募集サイトにドゴの姿があったのだ。 この女の子は推定6歳ながら非常に痩せ細り、見るからに怯えている様子で、イメージしていたドゴの堂々たる姿とは天と地ほどかけ離れていた。逆に彼女のそんな姿が気になって仕方なく、団体へ連絡を取った。 「彼女に対しては犬としての見返りを求めないでください」 はじめに、そう言われた。きっと前の飼い主に虐待をされていたのだろう。警戒心が強いから名前を呼んで自分のもとに来ることはないし、戯れることはできないだろう、と。狭い檻の中に閉じ込められ、繁殖のためだけに利用されていたようだった。 団体との慎重なやりとりを2ヶ月繰り返し、テツさんはついにこの女の子を引き取ると決心した。
「最初は部屋の隅にうずくまって動かない。生活音もダメで、コップを置く音やテレビをつける音でいちいちビクッとしていました。 正直何度も心が折れました。特に男性に対して警戒心と恐怖心を持っているから、いたずらをされても怒れないし、しつけというしつけの仕方がわからなかったんです。 ブランドの財布と中に入ってるクレジットカードをバキバキにされたけど、何も言えなかったこともあります(笑)」 それでもテツさんは諦めることなく、愛情を注ぎ続けている。 真っ白な見た目から団体の方がつけてくれた「ミルク」という名前を、たくさん呼びかけるようにしてあげた。 そして出来る限り長い時間触れて、目を合わせてコミュニケーションをとることを大切にした。 毎日鶏肉をゆでて、ほぐして、野菜も切ってあげている。 ミルクが嫌がるからと、バブルスも生活スペースを制限されていた。 しかしある日突然、ミルクから、バブルスに向かって遊びを仕掛けてきた。それまで絡むことすら避けていたのに。 「その日はものすごく嬉しかったです」と回想するテツさん。 それからは、バブルスが家のルールや、散歩の仕方もリードして教えてあげているようだ。だからミルクはいつもバブルスにくっついている。 「ミルクを引き取ってやっと1年。最近ふとした時に距離が近づいたと感じる瞬間があるんです。 少しずつ、本当に少しずつだけど、その喜びはとても大きくて。 彼女と触れ合うことで自分自身もいろんなことに優しくなれるようになった気がします。いい巡り合わせでした」
テツさんにお話を聞いている途中で、ワンちゃん仲間たちがやってきた。 いつものお散歩コース、太東ビーチにはサーフコミュニティと同様にドッグコミュニティも形成されているようだ。 バブルスが真っ先に他の犬に飛びつき遊び始めた。しかしそんなときにもミルクは車の中でじっとしている。 「バブルスはお調子者でね、自分が人間にくっついて座ったら撫でてくれるのがわかってるんですよ。要領いいところは俺と似てるのかも(笑)。 でも、ミルクは他の犬や人どころか、俺に対してもまだまだ警戒心があります。寂しいけど、ゆっくりでいいんです。 ドゴは寿命が短くて10年くらいだから、きっと一緒にいられるのはあと5〜6年。 この子が年をとって動けなくなった時、最後に甘えてくれればそれで報われるかなって思ってます」 ミルクの第二の人生は始まったばかり。 人間が与えてしまった苦痛の記憶は彼女の中から抹消することはできないかもしれない。 しかし愛で塗り替えることはできる。 テツさんとバブルスのコンビならそれを近いうちに実現できるだろう。 photo : Pak Ok Sun text : Alice Kazama 出典:Blue. 【With My Buddy #002】 http://www.blue-mag.com/diary/with-my-buddy-002/
商品番号 ogawatetsuya
0円(税込)